「見えない敵〜美しい少女の声〜」

 今日もオレの仲間が約100人殺された。しかし、誰に殺されたのか、何で殺されたのか、そしていったい凶器は何だったのか。何もかもが解らない。そもそも、もう何年もひきこもっているてめえに仲間が100人いるっておかしくないか。いないに決まっている。そうだ、何を言っているだ、このひきこもり男は。とか、思っている人がいるんじゃないか。いそうだ。たくさんいそうだ。そうじゃないか?ならひどい。ひどすぎる。しかし、これは妄想ではない。確かに今日も見えない敵によって、100人の仲間が殺されたのだ。

 かくいうオレも、どうやら見えない敵に命を狙われている。目とじ耳をすませば・・・美しい風景と優しい音色・・・それをかき消すような美しい少女の声で「醜いものは嫌い。死んじゃばいいのに」という、天使のささやきが聞こえる。あーもちろんオレはそんな声には耳もかさない「無駄無駄無駄無駄ー」と応戦してやるが、最近その元気もなくなってきた・・・。でも相も変わらず「世界は醜いことばかりだよ。耐えて耐えて耐えてそこまでして耐えて、生きる価値なんて全然ないのに。生きていれば良いことがあるって?そんな言葉にだまさないで。それは言っている人に起こることであって、君にはこれからも悪いことしか起こらないんだから。だからなるべく早く早く。消えたほうがいいよこの世界から」やさしい声が聞こえる。

 オレはどうしようか迷っていた。もう疲れた。心底疲れた。もう小指のみをぴーんと立ててワインを飲む元気もない。このままあのささやき通りに、この世から消えてしまおうか。それもいい。どうせ生きていても仕方がない命。誰も望まない命。オレ自身でさえ望まない命。それなのに他の命を奪ってまで生き、毎日苦しんでいるなんて我ながらバカげているじゃないか。他の生命に失礼だ。よし、消えよう!今すぐパッと消えてしまおう!

―――し、しかし。まてよ。このままだとオレも見えない敵に殺されることになる。そんなの嫌だ!百歩ゆずっていいとしてもだ!そのまえに、とりえず小指をぴーんと立ててワインを飲みたい!そうだ、最後にワインを飲んでからこの世から去ろう。トクトクトクとワインをグラスに注ぐ。もちろん、グラスは超ビッグサイズだ。最後ぐらいいいだろう?ゴクゴク、んーうまい。うまいけど、チーズがあるとなお良いな。ワインにあうスナックも欲しい。しかし、あいにく切らしていた。最近全然買い物にも行ってなかったからだな・・・。

 そうだ、明日買いに行こう。